'97秋季気象学会予稿



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UARSデータに基づく非断熱子午面循環の見積り(II)

*辻政二・廣岡俊彦・三好勉信(九大・理)

1 はじめに

 近年、南極域春先のオゾンホールに加えて、 北極域でも顕著なオゾン減少が観測されるようになった。 このようなオゾン変動には、極渦内部の化学反応に加え、 オゾンの子午面内輸送機構、すなわち、 中層大気中のラグランジュ的な平均子午面循環の変動が密接に関わっている と考えられる。
 そのような観点から、我々は、 Upper Atmosphere Research Satellite (UARS) の観測データを用いて中層大気の放射エネルギー収支を計算し、 非断熱子午面循環を見積ることを試みた (廣岡、辻ほか, 1996, 気象学会春季大会)。 使用した放射計算のアルゴリズムはNakajima & Tanaka(1986) の方法で、実際に1992年1月の観測データに基づいて計算を行ったが、 熱帯域下部成層圏に、加熱率が負となる領域、 即ち下降流領域が広く現れ、通常知られている特徴とは やや異なった結果となった。 その原因としては、前年1991年6月に噴火したピナツボ火山噴出の エアロゾルによる 気温上昇の影響を推定した。 また一方で、用いたUARSデータは46hPa面より上しかないため、 計算上必要な下層のデータは気候値データを用いていたが、 その影響についても検討する必要があった。
 これらのことを明らかにするために、今回は、 いくつかの補足的な計算を行ったので、 その結果を報告する。

2 データ及び計算方法

 前回の計算の方法は次の通りである。 UARSデータとしては、ISAMSの温度、 MLSのオゾン及び水蒸気の帯状平均値で、 各量は月平均を施し、 100hPa面より下の高度は、温度はCIRA1986、オゾンと 水蒸気はMcClatcheyほか(1972)のモデルを用い、UARSデータがある高度との間は 値を線形的に補間した。 これに基づき放射の計算を行った。
 今回は、これと比較するために、 (1)UARSデータが存在する高度以下で、鉛直方向に値の 平滑化を行ったデータを用いたもの、 及び(2)温度場のみ全てCIRA1986モデルを用いたもの、 の2種類の計算を行った。 (1)は下層データの中層大気への影響を見るために、 (2)はピナツボ噴火の温度場への影響を見るために、それぞれ行ったものである。

3 結果及び今後の課題

 図1に(1)の条件下での1992年1月の 非断熱加熱率の子午面分布を示す。 この分布は、平滑化を行った50hPa面以下の領域を除き、 前回行った計算結果と殆ど同じであり、 従って、下層への気候値の挿入は、実際に UARSデータが存在する高度以高には殆ど影響を与えないことが わかった。
 図2は(2)の条件下での同様の図であるが、 図1及び前回の結果と異なって、熱帯域の成層圏は全域にわたり 正の加熱率分布となっており、通常知られている特徴と一致する。 これより、1992年1月の温度は通常より高く、 そのため長波放射が増えて、熱帯域下部成層圏で 負の加熱率になったのだと考えられる。
 今後は、放射アルゴリズムとして他の手法を用いて結果の 確認を行った上で、 さらに引き続き、季節変動や 年々変動についても調べていく予定である。



 図1 (1)の計算条件下での1992年1月の非断熱加熱率
の子午面分布。単位はK/day、等値線間隔は1K/day。
破線は負の領域を表わす。




 図2 (2)の計算条件に基づく図1と同様の図。




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    上部中間圏・下部熱圏でのラグランジュ的物質輸送

    *渡辺真吾、宮原三郎、三好勉信(九大・理)

    1はじめに
     上部中間圏から下部熱圏にかけては,潮汐波,内部重力波,さらに長周期のプラネタリー波などが卓越している。この様な状況下での物質輸送を調べるため,九州大学中層大気大循環モデルのデータを用いて,オフライン計算で,秋分条件下のこの高度でのラグランジュ的物質輸送を計算した。

    2データと計算方法
     九州大学中層大気大循環モデルのデータは地上から下部熱圏(高度約145km)に及ぶ。これを1時間毎にサンプリングし,低周波フィルターにより,半日周期より長い成分を取り出し,計算を実行した。よって,本研究での輸送には短周期波動の効果は含まれない。
     ラグランジュ輸送の計算は,球面座標系で,粒子の位置に周囲のグリッドから水平風と鉛直p速度を線形補間し,時間積分にはオイラー法を用いた。タイムステップは6分とした。

    3結果
     最初に高度約80km〜130kmのいくつかの等圧面に水平に一様に配置した粒子の移動を,10日間計算した。その結果,中間圏界面付近では主に赤道と両極付近で下降し,南北緯度40度付近でわずかに上昇するラグランジュ的子午面循環像が得られた。下部熱圏では赤道付近で大きな下降が目立った。(図1)
     その代表的大きさは両極付近で最大0.009ms-1, 赤道付近で最大0.038ms-1示量度である。
     赤道付近での下降は主に波数1で西進する一日潮汐の影響による。両極付近での下降は非断熱子午面循環の影響による。赤道付近での下降は帯状平均残差子午面循環とは一致しない。(図2)

    4今後の課題
     今回の結果では,赤道付近の輸送は帯状平均残差子午面循環とは定性的にも一致しなかった。散逸や時間依存性が強い場合には両者は必ずしも一致しないことが知られている。今回の結果の不一致が何に由来するのか検討の必要がある。
     今回の計算では短周期波動成分の効果は無視したが,これらの効果を取り入れた計算を実行する必要がある。また,乱流拡散や分子拡散の効果についても考慮する必要がある。


    図0 粒子の初期配置の子午面投影図
    (予稿集には掲載しない)


    図1 最初鉛直5km間隔で水平に一様に配置した粒子の239時間後の位置を子午面投影したもの。



    図2 10日間平均の帯状平均残差子午面循環。




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