1はじめに 上部中間圏から下部熱圏にかけては,潮汐波,内部重力波,さらに長周期のプラネタリー波などが卓越している。この様な状況下での物質輸送を調べるため,九州大学中層大気大循環モデルのデータを用いて,オフライン計算で,秋分条件下のこの高度でのラグランジュ的物質輸送を計算した。 2データと計算方法 九州大学中層大気大循環モデルのデータは地上から下部熱圏(高度約145km)に及ぶ。これを1時間毎にサンプリングし,低周波フィルターにより,半日周期より長い成分を取り出し,計算を実行した。よって,本研究での輸送には短周期波動の効果は含まれない。 ラグランジュ輸送の計算は,球面座標系で,粒子の位置に周囲のグリッドから水平風と鉛直p速度を線形補間し,時間積分にはオイラー法を用いた。タイムステップは6分とした。 3結果 最初に高度約80km〜130kmのいくつかの等圧面に水平に一様に配置した粒子の移動を,10日間計算した。その結果,中間圏界面付近では主に赤道と両極付近で下降し,南北緯度40度付近でわずかに上昇するラグランジュ的子午面循環像が得られた。下部熱圏では赤道付近で大きな下降が目立った。(図1) その代表的大きさは両極付近で最大0.009ms-1, 赤道付近で最大0.038ms-1示量度である。 赤道付近での下降は主に波数1で西進する一日潮汐の影響による。両極付近での下降は非断熱子午面循環の影響による。赤道付近での下降は帯状平均残差子午面循環とは一致しない。(図2) 4今後の課題 今回の結果では,赤道付近の輸送は帯状平均残差子午面循環とは定性的にも一致しなかった。散逸や時間依存性が強い場合には両者は必ずしも一致しないことが知られている。今回の結果の不一致が何に由来するのか検討の必要がある。 今回の計算では短周期波動成分の効果は無視したが,これらの効果を取り入れた計算を実行する必要がある。また,乱流拡散や分子拡散の効果についても考慮する必要がある。 |
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